表参道ヒルズの設計を手がけた世界的建築家といえば、もちろん安藤忠雄さん。この建物やエリアについて、建築全般について、あらためて話を聞いてみたい----。今秋に国立新美術館での大規模な個展の開催を控え、大忙しの日々を送るこの方が、スケジュールの合間を縫ってやってきてくださいました。
最初、地権者の方々は大反対でしたよ。
安藤の建築なんかいらない、
なんで再開発する必要があるのか、と。 (安藤)
最初、地権者の方々は大反対でしたよ。安藤の建築なんかいらない、なんで再開発する必要があるのか、と。 (安藤)
安藤 : はいっ、さあどこで撮りますか。あ、そっち。ハイハイハイ。それで、何をしゃべりますか?
---- 表参道ヒルズのオープンが2006年。今年で12年目になりました。当時どんなことを思い描いて設計されたのでしょう?
安藤 : 元々ここには、同潤会の青山アパートメントが建っていました。1923年の関東大震災のあとにできた同潤会は、集まって住むことを時代に先駆けて提案した。その歴史をしっかりと残したいと思いました。今まであったものを活かすことは、建物の公共性につながりますから。"今まであったもの"とは、ここでは同潤会の歴史だし、坂道という地形だし、ケヤキ並木というわけです。約270mの長さになる道沿いの建物は低層に抑え、代わりに地下を約30m掘りました。それだけ掘るにはかなり費用もかかりますが、当時の森ビルの社長でいらした森稔さんが英断してくださった。そして〈同潤館〉という名前で一棟を残す。さらにファサードはケヤキを映し込むようガラス貼りにし、内部は、表参道の坂道を引き込むように、スロープで上り下りするつくりにしました。
---- 当時を振り返って、ご苦労なさったことはありますか?
安藤 : あります。最初、地権者の方々は大反対でしたよ。安藤の建築なんかいらない、なんで再開発する必要があるのか、と。でも森ビルはそれまでにアークヒルズや六本木ヒルズを手がけていて、単なる再開発ではない、地元の人たちと徹底的に話し合って、より豊かな街をつくろうという気持ちがある会社でしたから。最初は反対、反対で絶望的な状況でしたけど、話し合いを重ねて次第にいい形になっていきました。森稔さんは、心の底から街のことを考えておられる方でしたから。その気迫が伝わったんだと思います。ハイ、もう終わり?
---- いえ、まだ5分も経ってないので終わりません!(笑)。〈表参道ヒルズ〉で思い出深い場所を教えてください。
安藤 : 建物の前面に水が流れてるでしょう? これはある日森さんから電話がかかってきて、「表参道は(明治神宮へ向かう)参道だから、お清めの意味で水を流したい」と言われるわけです。「通りのあっち側にも水を流せ」と。"あっち"って、車道を挟んだ向かい側のことですよ(笑)。私が「森さん、あちらは他人の土地です。無理ですよ」と言ったら、「無理、無理って、そんなこと言っていては街はできていかん!」と。ちょっと聞くと完全に自己中の発言ですけれども、すごく大きな目で街を見ておられたからこその言葉だなと。街をつくっていくときには、あのくらいの構想力と大胆さがないといかんのでしょうね。
---- 今の表参道ヒルズはどうですか?
安藤 : 裏側がツタで覆われて、とてもよくなりました。同潤会は、時間が経つにつれどんどんよくなってきた建物です。だから〈表参道ヒルズ〉も段々とよくなってきたのは嬉しい限りですねえ......こちら側から見るとまたケヤキに埋もれて、元あった同潤会の風景によく似てきたように思います。
---- 建物が変化することに、安藤さんは想像以上に寛容なんですね。
安藤 : 変化がなければ面白くありませんから。建物はしっかりとメンテナンスしていけばいいのです。〈表参道ヒルズ〉は、メンテナンスが行き届いて、きれいでしょう? そうすると、利用者の方も余計なゴミは出しにくくなる。丁寧につくったら丁寧に使われる。そしたらきれいなまま、いい変化を続けていくんですよ。〈表参道ヒルズ〉には、100年はどっしり座り続けていてほしい。そう思ってます。
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