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注目アートディレクター・石塚 俊が語る 2020年秋ビジュアル「Newhere」に込めた想い

2020年秋ビジュアル「Newhere」に込めた想い


2020.10.14

表参道ヒルズの2020年秋ビジュアル「Newhere」を見て、ハッとした方も多いのではないでしょうか。淡く重なり合う人物の曖昧な輪郭に、グラフィティ(落書き)のようにもカリグラフィー(装飾手書き文字)のようにも見える文字。これまでの表参道ヒルズの広告ビジュアルの流れを覚えていればいるほど驚かれるはず。主流であったクッキリ見やすいタイポグラフィーから離れ、新しい世界へと踏み出すような、挑戦的なデザインです。

これは何? どうなってる? 不確かで捉えがたいものを投げかけてくる本ビジュアルへのリアクションは、2020年の私たちが、変化を余儀なくされた世界に対して言いたいことでもあるでしょう。

今回のビジュアルは、グラフィックデザインを軸として活動される石塚 俊さんをアートディレクターに迎え、美術作家の村田 啓さんとともに、表参道の街を舞台に撮りおろしたもの。
制作方法や込めた想い、何と書いてあるのか(!)など......石塚さんに、たっぷりとお話を伺いました。

プロフィール

石塚 俊(いしづか しゅん)
グラフィックデザイナー。早稲田大学にて映像学を専攻、2014年よりフリーランス。
作家と協働し、舞台芸術や現代美術、音楽やファッションなどの分野において、宣伝美術や装丁、ディスプレイデザイン、映像制作などを行う。
https://shunishizuka.com

---- これまでの表参道ヒルズのビジュアルと比べて、抽象性が高く先鋭的な印象を受けますね。見たときに少し驚きました。

石塚 : はい、よくこれ通りましたよね(笑)。例えば女性と男性がはっきりと写っているところに、ローマン体でタイトルを置けば綺麗に定着させられるし、受け手もきっと安心はするんですけど。でも、そういうオファーではなかった。

---- 今回のビジュアルでは、写真を美術作家の村田さん、グラフィックと総合ディレクションを石塚さんが担当されたそうですね。

石塚 : ええ。僕も村田くんも、キャリアの中でファッションシューティングの経験はほとんどありませんでした。でも、だからこそできる面白さがありますよね。例えばこういう挑戦的なビジュアルに取り組ませてもらえるなら、普通の洋服ではないようなものを使う選択肢もあった。けど、いわゆるファッション撮影のフォーマットで、あえて従前と同じ条件で取り組んだ上で、逸脱とか脱臼みたいなものをひき起こそうと。

---- 人物や風景が溶け合うような、不思議な写真ですね。どのように制作されたのでしょうか?

石塚 : 写真合成に見えますが、違うんです。カメラのレンズの前に短冊式の鏡を置くことで、離れた場所にいるふたりが画面上でクロスして見えるという手法を使っています。これは村田くん独特の表現方法ですね。今回は表参道の交差点と、ヒルズのすぐ近くにあるビルの屋上で撮影を行いました。

撮影風景。モデルのふたりの間には距離があるが、特殊なミラーにより写真では重なる仕組みとなっている。

---- 背景左手の「青山セントグレース大聖堂」が、一瞬、異国を思わせますね。

石塚 : この街に尖塔があるなんて、なかなか思わないですよね。これが入ることで、場所がどこなのかがブレるので、いいなと思って。今回のビジュアルが(情報がスッと入ってくるような)スタンダードな広告的表現から少し外れているように、風景にも "いわゆる表参道" だけじゃない揺らぎを持たせています。

---- 以前にも、石塚さんと村田さんでタッグを組んで「PUGMENT」というファッションブランドのためのビジュアルを作られていますね。もともとは、そのビジュアルに惚れ込んだ表参道ヒルズからのオファーだったのだとか。今回のビジュアルでは、見る人にどのようなものを感じ取ってほしいですか?

ファッションブランド「PUGMENT」のためのビジュアル《Pugment Taka Ishii Gallery Exhibition "Never Lonely" Lookbook》

石塚 : 今の状況下、変わっていく人と人の身体的距離だったり、"離れざるを得ないもの" があると思います。そして、ここは商業施設だから来てもらわなきゃならないけど、大々的に「来て」とも言えない。そういうどうしようもなくもどかしいものを、"離れたものが重なる" このイメージに定着できたらと思いました。

---- グラフィックの白い部分は何と書いてあるのでしょうか?

石塚 : 読めないですよね(笑)。これはコピーである「Newhere」と書いてあります。

同じタイトル文字をふたつ、地面を始点にして上方へと引き伸ばしてズラしています。それだけでは不恰好なふたつをダブらせ、低いものと高いものがあることで縦のラインが背景のスカイラインと同期して心地が良い。"重なり合うもの" というコンセプトを意識させる狙いがあります。自粛期間中に感じた時間の伸縮するような感覚を反映していたり、強引なデジタル処理による意図せぬ歪みをあえて残していたり、このタイトル文字だけでもいろいろな読み解きができると思います。

このタイポグラフィーシリーズは、グラフィティーのようでもあり、カリグラフィーのようでもあり、筆記体のようでもあり、デジタルのようでありアナログのようである......という、ここ1年くらい様々に展開させている取り組みです。「PUGMENT」の時には太くて力強いストロークだったものを、今回は表参道ヒルズ向けに極度に洗練させています。

---- タイトルの「Newhere」についても教えてください。

石塚 : タイトルは皆で話し合って決めました。ギル・スコット・ヘロンというミュージシャンの「I'm New Here」(ここに来たのは初めてさ)いう曲があるんですが、そこから「New Here はどうですか」と村田くんが。そこでNewとHereをくっつけてワンワードにすることで、「Where」のように場所性を意識させる言葉にしました。

---- では、その新しい言葉「Newhere」を訳するなら何でしょうか?

石塚 : 英語としてそのまま訳すと "ここじゃ新人 " なんでしょうけど......"新しい+場所"、 "新しく+ここに"、のような。ビジュアルと同様に、この言葉にも複数の意味が重なっています。

---- なるほど。今私たちが立っている "ここ" は、これまでとはだいぶ様子が変わっていますもんね。

石塚 : 消費ばかりで浮かれていられないような状況や、「ここに来て」とは言い切れない状況がある。これは広告ビジュアルですが、盲目的な賛同は示していないというか。ある意味で、現在を客観的に捉える目線と言えるかもしれません。この写真もただ単純にポジティブなものではないと思っているし、文字だってすごくエレガントなものかというと、そうではないと思っていて。

----「表参道ヒルズ」という場所について、どう捉えていらっしゃいますか?

石塚 : 建物が垂直に伸びるのではなく、すごく長い距離を水平に伸びていきますよね。そう言えば、「じゃあ表参道ヒルズ前で待ち合わせね」ってあまりならないじゃないですか。それは、一応エントランスっていう "点" はあるけど、やっぱり街に溶け込むように "面" で伸びていく建物だからだと思う。しかもショップが上じゃなくて下方向に広がっているのが面白い。他にない構造的要件が、直接この施設の魅力に繋がっていると思います。

---- では、石塚さんにとって、表参道の街はどんな場所でしょうか?

石塚 : 東京近郊の出身者としては、中学時代にまず竹下通りに行きますよね。それで高校生になると、僕の世代ですと裏原宿にたどり着いて。大学生になると、さらに奥......表参道にデビューして。緊張して......買えないんですけどね(笑)。

---- すごくわかります。

石塚 : 個人的なイメージですが、竹下通り→裏原宿→表参道、みたいに進んでいく "ダンジョン感" があって。でも、ファッションを追いかけて表参道へ抜け出ると、そこにあるのはファッションだけじゃなかった、っていうのがすごく面白いと思うんです。ブランドが運営するギャラリーもあるし、ショップの中にもモダンクラフトが並んでいたり、高級ブランド店には有名建築も沢山ある。ファッションがファッションだけで成り立っていないというか。

---- ファッションが、他の分野のカルチャーへ滲み出しているような感覚がありますね。

石塚 : だから、例えば服を買わない人でも、お気に入りの場所をめぐってこの街を歩くことができる。街やブランドの持つ色々な側面を、皆それぞれ好みの角度からキュレーション(編集)してルーティングした、自分なりの表参道を作っていると思う。そこに更に、食文化やオリンピックを含む戦後史なども入ってきて。その、何層にも重なり合った文脈を持つ街、というのは魅力に感じます。

---- その街の魅力は「表参道ヒルズ」という存在にもリンクしますね。ファッション性の高い商業施設だけど、ファッションだけでなく、ギャラリーもグルメもあって。

石塚 : ええ。だからこそ今回のような......いわゆる "ファッション広告" とはまた違う、ビジュアルを発信できるのかもしれないですね。

---- 今後、どのような表現を目指していらっしゃいますか?

石塚 : ひとつのパースペクティブしかないものではなく、もっと多義的なものを制作していきたいです。ハイとローだったり、ファッションとアートだったり、過去と未来を行き来したり。それによって、幅広い層に直感的に訴求しながら、同時に深い読み解きも引き起こせるような......自分が作るものには、そういったいろいろな取っ掛かりを用意できたらと思っています。

文=小杉美香(Mika Kosugi)
撮影=前田勇輝(Yuki Maeda)
編集=OMOHARAREAL

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