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目を奪う驚きと現象。 we+が魅せる水と光のクリスマス

目を奪う驚きと現象。we+が魅せる、水と光のクリスマス


2019.11.28

2019年令和最初のクリスマス、表参道ヒルズに"水の魔法"により、刻々と変化するイルミネーションが現れます。吹抜け大階段の空間全体に、約40個の特殊な水槽に囲まれた高さ約7mのクリスマスツリー。水槽に敷き詰められているのは、水中では水と一体化し見えなくなるという特性を持つ「吸水性ポリマー」です。各水槽の水位をランダムに調整することで、水槽の面によってツリーが見え隠れし、見る時間や角度によって表情が多様に移り変わります。

デザインを手掛けたのは、日常の中に潜む事象や驚きを表現し、見る人に新しい視点と価値を提示する作品を国内外で発表している「we+(ウィープラス)」。瞬間ごとに変化し続けるクリスマスツリーは、時間を忘れてその変わりゆく様子をずっと見つめていたくなるような、幻想的な美しさです。「水」の特性を活かし、アートやデザインの視点を取り入れ、独創的なイルミネーションの仕掛け人である「we+」の安藤北斗さんと林登志也さんに、今回の制作に向けた想いについてインタビューしました。

---- 「we+」の成り立ちについて教えてください。

安藤 : おそらく2006年だったと思います。当時、僕はロンドンの芸術大学に所属しており、一時帰国中の際に共通の友人を介して林と出会いました。

「we+」林登志也さん(左)、安藤北斗さん(右)

林 : 僕はすでに社会人として広告代理店で働いており、とある「ものづくり」のクラスを受講したときに仲良くなった友人が安藤とも知り合いで、「何か面白いことをやりたいね」と、その友人を含めて3人でユニットを結成し活動をスタートさせました。

---- 制作時のお2人の役割分担はあるのでしょうか。

安藤 : スタジオには僕ら含めて4人が所属しているのですが、アイデアを出し合い、これだと思った案に対して実験を重ね、ディスカッションした上で指針を立てます。そこからデザインは僕が先導し、コンセプトやコピーライトは林が先導する。ただしそこに垣根はなく、お互いの内容についても考えながら議論を続けます。

林 : 僕らの制作の特徴は「実験」です。あるアイデアが本当によいかどうかは実際に作ってみないと分からない。実験的に作ってみて、その結果への判断は2人で行い、実務的なところで少し分担が生じる程度です。

「we+」のアトリエ。

---- 今回のイルミネーションは、どのように発想されたのでしょう?

安藤 : これまでの実験やリサーチから、気になる素材の蓄積があり、アイデアを出し合う中で、「吸水性ポリマー」という種がポロっと出てきました。吸水性ポリマーは透明度が高く、水中では水と一体化して見えなくなる。また、光を当てると美しく反射する特性があります。実験を重ね、どういう見せ方があるか、深掘りしていくと徐々に全体像が見えてきて、そのタイミングでコンセプトをまとめ、表現とのあいだを行き来しながらブラッシュアップしていきました。

林登志也さん(左)、安藤北斗さん(右)

林 : 難しいのが、吸水性ポリマーと水、オーナメント、それに対する光の関係です。光の回り込み方によって、よくも見えるし悪くも見える。遠くから見ると中に大きなツリーが存在しているように見えるのですが、実は架空のツリー。吸水性ポリマーに対して、適切な光の距離、オーナメントの配置などを緻密に計算しました。

水槽の内側に使われている架空のクリスマスツリーとなるパーツ。

---- 「水の魔法に誘われるクリスマス」というテーマは、意外性がありますね。

安藤 : 誰も見たことのないクリスマスツリーを、前例のないアプローチで作るという、ゴールの見えない作業は面白くもあり、挑戦でもありました。水は日常的に触っている物質ですから、見る人も作品に入り込みやすい。吸水性ポリマーも、芳香剤や保冷剤として生活に溶け込んだ素材であることにも注目しました。

イルミネーションの仕掛けを担う素材、「吸水性ポリマー」。

林 : 以前の表参道ヒルズのクリスマスイルミネーションを拝見して、独創的なアプローチが求められていると感じました。僕たちは手法として「時間」をよく作品に取り入れるのですが、変化し続けるツリーを作りたいという気持ちがありました。さらに夏のイメージが強い「水」をあえてクリスマスという空間に持ち込むことで、いつもとは違った風景が見られるのではないかと思ったのです。

水槽内の水位が下がればツリーがモザイク調に見え、水量が増えるに従いツリーがくっきり見えてくる。

---- 「水」と並んで「光」も、イルミネーションの鍵になっています。

安藤 : 古来、祝祭にとって「光」は特別な存在で、焚き火や松明、蝋燭などの御火焚きは人間のプリミティブな行為です。さらに水や吸水性ポリマーに光をあてると、クリスタルのように輝き、有機的な変化が生まれます。それらが聖夜の祝祭性と上手くマッチし、幻想的な空間を演出できたのではないかと思います。

林 : 今回、よく仕事でご一緒している照明チームと共同作業をさせて頂いたのですが、そこでも「いい光って、何だろう」という実験を執拗に重ねました。当初から吸水性ポリマーと光の関係をよく理解して「この色がいい」「この光は冷たすぎる」と、細かい検証に粘り強く付き合ってくださった結果、高揚感のある空間が実現できたと思います。

---- ぜひ見て欲しいところは?

安藤 : 水が入った時のツリーの変化です。設置場所に同じサイズのサンプルを持参し、水を入れてどう見えるのかを検証した際、多面的な見方が可能なことに気がつき、「この面白さを伝えたい!」と思いました。ですから上から下から、各フロアから、いろいろな場所から見て頂きたいですね。

林 : どのタイミングで訪れても、いずれかの水槽の水が動いています。まず全体を見て、近づいて実際に水が入っていくところを見て頂くと、モザイクがかった世界、ぼんやりと光の反射が美しい世界から、くっきりと奥行きを感じる世界へ、ツリーの表情が劇的に変わる驚きを感じて頂けるのではないかと思います。

---- 「目置き」という造語をキーワードに制作されていますね。

安藤 : 「目置き」とは、焚き火であったり、水面のきらめきであったり、時間によって移り変わる形や表情を、ぼんやりと眺める行為を指しています。社会に対する問い、新しい視点を作品に包含させたいという思いがあり、ひとつの表現手法として「目置き」をキーワードにしています。都市生活はテクノロジーの進化とともに、つねに情報と接して頭も心も休まる暇がない。ぼんやり何かを見続ける、あるいはものの細部までよく見るという、目の前の現象に意識を集中させることが失われています。例えば夕日や雨の雫をずっと見続けてしまうのは、昔から人間がしてきたことです。僕らのDNAに刻み込まれている感動体験は、現象に目を奪われてしまうこと。それが現代に必要だと感じます。

林 : 現代は忙しすぎる。世界をもう少しゆっくりさせるような提案をしていきたいですね。「目置き」を念頭に制作すると、立ち止まってじーっと見てくださる方が多いのも事実です。アートやデザインは「非言語コミュニケーション」。国内外問わず、言葉を介さずとも作品と鑑賞者がコミュニケーションできるのは、人の心に手が届く強いメディアだと思います。

---- 表参道ヒルズはどのような場所でしょうか。

林 : いつも思うのが、自分が何階にいるのかよく分からない(笑)。いい意味で異空間なんです。地下3階から地上3階まで吹き抜けていて圧迫感がなく、内部なのに外にいるような心地よさがある。入り口のレベルが異なるのも面白く、建築家の安藤忠雄さんが約3度の傾斜地形を計算し尽くした驚くべき建築だと思います。

安藤 : シームレスな空間が螺旋状につながり、ねじれを誘発している面白さがあります。建築自体も魅力的ですし、アートとデザインに注力されている施設自体の取り組みにも注目しています。それに周辺を含め「建築のミュージアム」と呼んでもいいくらい、世界の名だたる建築家の建物が一気に見られる刺激的な場所です。

---- 今後、挑戦していきたいことは?

安藤 : 科学、文化人類学、考古学、歴史学といった分野の調査・研究者の方々と協働してみたい。専門家の方々にお話を聞きながら、自分たちの創造力を掛け合わせることで何か新しい物が生まれるのではないか。都市と全然違うところでの物づくりのアプローチに興味があります。

林 : 土着の文化ってそれぞれ固有で、違った文脈が流れています。欧米の先進国と呼ばれる文化への関心に加えて、辺境、ローカル色の強い場所でのプロジェクトに興味があります。自分たちのアプローチは万人共通だと思っていますが、実はそうではないところもあるのではないか。可能性を広げながら、まだ見ぬ新しい世界を開拓していきたいです。

「we+」のアトリエにて。

>>CHRISTMAS ILLUMINATION「Brilliant Aqua Tree」の詳細はこちら

プロフィール

we+ (ウィープラス)/コンテンポラリーデザインスタジオ
林登志也と安藤北斗により2013年に設立。リサーチと実験に立脚した独自の表現手法で、新たな視点と価値をかたちにするコンテンポラリーデザインスタジオ。Gallery S. Bensimon(パリ)やRossana Orlandi(ミラノ)などのデザインギャラリーに所属。国内外での作品発表の他、多様なバックグラウンドを持つメンバーそれぞれの強みと、日々の研究から得られた知見を生かし、インスタレーションをはじめとしたコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、グラフィックデザインなど、様々な企業や組織のプロジェクトを手掛ける。「ELLE DECOR Young Designer of the Year」他、「KUKAN DESIGN AWARD」金賞、「DSA Design Award」金賞など、国内外で受賞多数。
オフィシャルサイト: https://weplus.jp/
Instagram:@weplus.jp

文=永峰 美佳(Mika Nagamine)
撮影=瀬田 秀行(Hideyuki Seta)
編集=FASHION HEADLINE

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