今年のクリスマス、表参道ヒルズでは「都会に出現するオーロラ」をテーマにクリスマスイルミネーションを実施。施設の特徴である吹抜け大階段の空間全体を使い、天井には約6,000本のアイシクル(つらら)で構成する「光のカーテン」が登場。さらに、20分に1回の特別演出では、「光のカーテン」にオーロラが映し出されるなど、訪れた人々を幻想的な空間に誘います。
デザインを手がけたのは、「ピアスから都市計画・宇宙開発までをデザインする」をコンセプトに、東京とシアトルを拠点に活躍するクリエイティブチーム「KEIKO+MANABU(ケイコ プラス マナブ)」。北国の冬空の美しさに着想を得た彼らが、鳥よけとして使われる異色素材を用いて、アート・建築の視点から吹抜け空間全体を演出しました。
素材の中に眠る、美しさ、面白み、アート性を活用し、独創的な空間をつくり上げたお二人に、今回の制作に向けた想いについてお話を伺いました。


----シアトルと東京を拠点に活動するお二人ですが、建築家・デザイナーという職業を選んだ理由を教えてください。
KEIKO : 私はアメリカに生まれ、幼少期はアメリカと日本を行き来し、高校からアラスカに行ったのですが、事あるごとに言葉のハンディを強く感じてきました。と同時に、空間表現やものづくりは、形を使って自分の思いを伝えられる、最良のコミュニケーションの手段だと感じていました。そのような背景から建築デザインの道へ進みたいと思い、大学から建築の勉強をはじめました。
MANABU : 僕の一番古い記憶は、1972年、2歳になりたての4月のこと。妹が母のお腹の中にいたとき、叔父が設計した建築途中のわが家を家族で見に行きました。建築現場がジャングルジムみたいで楽しかった。はしゃぎまわって、さあ帰ろうというときに、階段の途中が二、三段抜けていて、降りられなくなった。怖がる僕に父が手を差し伸べているシーン。あの広げられた手の記憶が鮮烈に残っていて、僕の記憶の原風景は、最初から建築とともにありました。
----作品を制作するにあたり、お二人の役割分担はありますか?
MANABU : まず僕が反射神経でアイデアの口火を切ります。でもそれは取るに足りないものだったりして、その後にKEIKOさんが、ドーン、ドーンと重低音でビートを効かせはじめると、プロジェクトが動きはじめます。それを静かに見守りつつ、ディテールなどの最終調整を提案する。彼女が主素材で、僕はスパイスみたいなものかな。
KEIKO : 具体的には、私たちの仕事は初めて行く場所となることが多いので、まず現場に足を運びます。どんな環境で、どんな人がどんな時間帯に活動しているのか。太陽の光はどう動くのかなど、場所をよく観察します。その上で、依頼主やクライアントの要求を聞きながら、これかな、あれかな、といろいろな提案を考えます。
MANABU : 今回の表参道ヒルズは、同潤会アパート時代から続く歴史ある場所を、建築家の安藤忠雄さんが一生懸命まとめて、この地下の吹き抜け空間を設計した。その場所に捧げられるようなものができればいいな、という思いがありました。


©OMOTESANDO HILLS
----現場をご覧になり、最初に描いたイメージは?
KEIKO : 大階段のスペースは広く、B3階から3階まで高低差もあるので、見るポイントがいろいろあります。歩き回ってみると、外から建物内に入ってきたときの視点、階段の下から見上げる視点、エスカレーターからの視点、スロープから見る視点などたくさんあり、どうしたら皆さんにめいっぱい楽しんで見ていただけるか、かなり意識してプランをつくりました。
MANABU : クリスマスイルミネーションを考えるときに、「冬の北国はきれいだよね」と話し合いました。KEIKOさんはアラスカ、僕は岩手の盛岡育ちで、冬は白銀の世界に包まれます。たまに太陽が出ると、つららが溶けて水をポタポタ流しながらキラキラ光る、あの美しさは東京ではなかなか見られない。見せてあげたいよね。そんな気持ちがプロジェクトの中心にありました。
----今回のデザインは北国の冬空の美しさからインスピレーションを得られたと聞いています。
KEIKO : 住んでいたアラスカの家の近くに、スワンレイクという湖がありました。裏庭が湖につながっていて、近所の友達と遊んでいるときに、オーロラを見たんです。巨大なカーテンの様にワーッと降りてきて、どんどん形を変えながら空を漂うオーロラが、自分を包み込む様な感覚を覚えました。自分の記憶のなかで、一番印象的なシーンの一つです。
MANABU : 僕の盛岡の家からも歩いて3分のところに「高松の池」という名前のスワンレイクがあります(笑)。盛岡のスワンレイクには、冬になると毎年何千羽という白鳥が訪れます。雪化粧した岩手山を背景に、日本海側で水分を落としてふわっと山を越えてきた粉雪が空中を舞い、冷え込みもマイナス10度は超えるので、呼吸すると吐いた息が凍る。あの雪の世界を想像しました。


----6,000本のアイシクル(つらら)がきらめく幻想的な空間への、一番のこだわりはありますか?
KEIKO : 揺れ動き続ける点です。今回アイシクル(つらら)として使用した、クロームメッキが施された螺旋状の鳥よけは、風を受けて回転する形状にできているのですが、長さ70センチの鳥よけを12本連結してしまうと、重くて回らない。最初にテストしたとき、まったく回らなくて、表参道ヒルズの担当者の方も「これでは、ちょっと......」という表情をされていて(笑)。
MANABU : さすがに、これはまずい、と思いました。テグス、水糸、結束バンド、工業用ゴム。施工チームの作業効率も考えて、何で連結させたら上手く回転するかをチームで必死に考えました。ホームセンターに行って、半日くらいウロウロして、途中で釣具屋に移動して。釣りというのは糸が絡まることを一番嫌うので、糸には伸縮性があり、戻るようにできている。一度動けばひねりが加わり、戻ろうとするバネの原理で回転し続けることができるのではないか。アトリエに戻って糸、長さ、つなぎ方の種類を変え、扇風機で風を送って実験しました。さらに検討した結果、強度も含めて2本の水糸で連結することになりました。


----この異色素材に出会ったきっかけは?
KEIKO : 夏、店舗の装飾で、涼しげに動くものを下げたいと探して見つけたものです。光を反射してキラキラと揺れ動くので、みんなが興味を持って集まってきて。鳥を寄せ付けないことを目的としているのに、逆に人の興味を掻き立てるというのが面白くて。これをたくさん使用して空間を作ってみたいと思いました。
MANABU : 形自体も数理模型によく似ていて、無駄なく動き続ける形状には美しさが宿っています。
----ぜひ体感してほしいおすすめポイントはありますか?
KEIKO : みなさんが撮影してインスタグラムに上げている写真を拝見して、私自身、多くの発見があります。もちろん、どこから見ても面白くなるよう意識しているのですが、サプライズはむしろみなさんの撮影した写真のなかにあるようです。


----ハートやダイヤなどのモチーフが使われていますね。
MANABU : ここ10年以上、作品によく使ってきたモチーフです。様々な場所で外国の人たちと接するなかで、ときに言語をめぐり孤独や断絶を感じる事があります。人と人とが共有できる世界共通のモチーフがあれば、よりストレートに気持ちを届けることができるのではないか。国籍も年齢もジェンダーも、何もかも超えることのできるモチーフであってほしいと願っています。


----光と音による20 分ごとの特別演出も、お二人が監修されているそうですね。
KEIKO : 空間演出にはじめて参加して、光の演出や音楽をつくっていただいたのですが、他ジャンルのプロとのコラボレーションが刺激的でした。音楽をつくる際にリクエストしたのが、男性パートと女性パートの声のバランスです。普通に神秘的なオーロラを解釈すると、女性ボーカルの澄んだ声になりそうですが、突出しないようお願いしました。その上で「癖になるような曲にしていただきたい」と(笑)。
MANABU : アラスカのトリンギット(Tlingit)族の美しい歌声の音源をお渡ししたら、音をドレミに変換して子音にRを加え、「ロレラリルレ」という旋律が生まれました。口ずさんでみると、知らない国の民謡、あるいは世界の共通言語でもあるような、不思議な異国情緒が湧き上がってきます。クリスマスの聖なる日、ぜひ、目だけでなく、光や音も含めた空間全体を、心ゆくまで楽しんでいただきたいと思っています。


プロフィール
KEIKO + MANABU / ケイコ プラス マナブ
内山敬子と沢瀬学が主催する、シアトルと東京に拠点を持つクリエイティブ チーム。「ピアスから都市計画・宇宙開発までデザインする」をコンセプト に掲げ、建築学を基礎に、商業空間、都市計画、芸術、教育など多領域 を横断する。近年では、企業の新事業・多角化事業へコンサルタントとして参加するなど、取組みの幅をさらに広めている。武蔵野美術大学、 工学院大学で講師を務める他、桑沢デザイン研究所では通年ゼミで 卒業設計指導を行っている。「JCD Design Gold Award」、「FRAME Moooi Award Finalist」等、国内外で受賞多数。
www.keikomanabu.com
文=永峰 美佳(Mika Nagamine)
撮影=中村 治(Osamu Nakamura)
編集=FASHION HEADLINE
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